2話 瓶詰悪魔 -6-

わたしは自分の性質がだんだん強くなっていくのを感じた。
二人から距離をとった。
二人ともものすごく怒った。
わたしは泣いた。
結局仲直りした。
わたしはこれを今でも――

                        ◆

時計の針と共に死は確実にわたしに迫る。
和真はいろいろと悪魔に質問している。
それによっていろいろ分かった。悪魔の背景は。
この悪魔自体は古代の魔術師に召喚され、そのまま瓶に定着させられたそうだ。
主に暗殺に用いられたとか。そりゃまあ影食べて人を殺すんだから暗殺向きだろう。
やがてその魔術師も死に、瓶と悪魔だけが残る。
あとは人づてに点々とし――時には使われ、時には倉庫で数百年――
そうやって今わたしのところにだそうだ。ここ百年くらいは日本にいたらしい。
前の持ち主がこの勝負に勝ってしばらくその手元にあったという。
だから、勝てるのだ。このゲームには。『Memento Mori』という紙もその前の持ち主が入れたものらしい。もうすこし分かりやすい警告にしてもらいたかった。・・・警告。
質問に疲れたのか、和真はこちらにやってきてわたしの真向かいに再び座る。
「もう、時間がない。瓶を壊すことを提案する」
和真は淡々とそう言う。
「あれはなんて言ってるの?瓶を壊した場合」
わたしは視線をちらりとやって、そう質問する。
「わからんそうだ。その前に割れるといいがね、と言っていた」
「やめておきましょ。まだ時間はあるし。割れたら割れたで大事そうだし」
「残り時間はもうすぐ1時間を切る。悠長に構えている場合じゃないんだぞ・・・・!」
和真は悲痛な声を出す。クレバーなこいつが珍しい。まあ知り合いが死ぬのがわかっていて止める手段がわからないというのはそりゃこたえるだろうけど。
「わたしは多分蓋をする以外の手段で助かる方法はないと思う。勘だけどね。まあそりゃわたしが思いつかない方法があるという可能性も否めないけど、蓋を手に入れるしかない、と思う」
わたしは自分の見解を述べる。死を前にわれながら落ち着いているとは思うが。
いいのだ、自分が死ぬんだから。わたしのせいで他人が死ぬよりずっといい。
「ねえ、わたしが死んだ後あんたはどうなるわけ?外に出たまま?」
悪魔にそう質問する。
「いいや、一度瓶にもどるさ。そしてまた次の獲物を待つと言うわけだね。
そうそう、一人殺したあとは自動的に蓋がされるから安心していいよ」
悪魔はこちらを振り向きそう答える。
この後に及んであれだが、わたしはこいつ個人に対する印象は悪くない。
変な話だが。たぶんこいつはそういう存在なのだ。本質的にはあの悪魔は孤独だろう。
ただ人の影を食べて瓶の中で生きるというのは、どういう気持ちだろうか。
『空音―――わたしを持ってきてください』
そんな今から殺される人間が持つにしてはありえない、同情にも近い感情をもてあましていると、鈴華から声がかかる。わたしはその鈴華の声色にハッとなる。
「なに、するつもり?」
『空音、わたしにそれを移します。わたしの命に代えてもあなたは守る。いいから早くわたしを持ってきてください』
「お断り。こう言ってはなんだけど、それで助かるって保証はないし。最悪あなたが死んでわたしはそのままって事態がありうる。冗談じゃないわ」
そう、冗談ではない。鈴華を失う可能性があるくらいならわたしがおとなしく死んだほうがいい。鈴華はわたしが物心つくころからの付き合いだ。絶対にそんなことはさせられない。
『空音、お願いです―――あなたがこのまま死ぬのを座してまつなど――ー私には耐えられない』
鈴華は涙声だ。
わたしは沈黙でそれに答える。
『和真様。お願いですどうか私を持ってきて下さいませ』
鈴華は聞こえないと知っていつつも和真にそう頼む。
和真が静かに立ち上がる。
「どこ行くの和真」
「トイレだ」
「嘘でしょう」
両者の間に沈黙が落ちる。
たぶんこいつは察した。
「悪いが、俺は鈴華さんとお前だとお前をとる」
「いいから座って。そんなことをしてみなさい。わたしは和真を許さない」
わたしははっきりと言い放つ。
「別に許されなくてもかまわんさ」
和真は一瞬だけ逡巡し、そう言ってリビングを出ようとする。
「わかったわよ。持ってくればいいんでしょ」
それを遮るようにわたしはそう言うとリビングを出る。
わたしは廊下を歩きながら考える。
さて、実は一つだけ答えらしきものがもう出ているのだ。
多分これが正解だとは思うのだけど。
外れた場合次の手段がとれないので一番後に回していたのだ。
わたしは自分の部屋に入る。まずは確認だ。そこらに置いてあるメモ帳を広げ、
ペンを持つ。・・・・・・・やっぱりか。ペンを筆立てに戻す。
次に机の一番上の鍵を開ける。
中から封筒を取り出す。
慎重に、中に入っていたものを取り出す。
「ちーちゃん。あーちゃん。お願い、力を貸してね―――」
なかから取り出したそれをポケットに入れるとわたしはタンスを開け、わたしは鈴華が入っている桐の箱を持って、リビングに向う。

決戦だ。