2話 瓶詰悪魔 -5-

中学になってもわたしたちの関係は変わらなかった。
ちーちゃんもあーちゃんもけっこうもてた。
好きな人の話もした。将来についても話したりした。

                        ◆

1時間が過ぎた。
和真は一人で瓶の蓋を捜索していたが見つかっていない。
わたしはさっきからこうしてボーっとソファーに座っている。
悪魔について考える。
影を食べる悪魔。古いガラスの小瓶から出てきて人間の影を食べる。
よく喋る。実体はない。物理的攻撃は効かない。鈴華の呪いも効かない。
鈴華、効かないってどういうふうに効かないの?弾き返される感じ?」
わたしは思い立って鈴華にそう訊ねる。
『いえ、呪いが素通りしているという感じです・・・・空音、大丈夫ですか?』
「素通り・・・・」
要するにほぼ無敵、ということだ。力ずくで排除、というのは根本的に無理そうだ。
だとするとやはり蓋をするしかない。
しかし蓋が無い。黒っぽいコルク栓みたいな形をした蓋。
わたしは瓶と一緒に入っていた『Memento Mori』と書かれた紙をじっと眺める。
死を想え。今思えば警告だったのか。いままさにわたしは死について考えているのだから。
「だいたい、そんな紙まで入っているような瓶の蓋を不用意に開けるお前もお前だ」
探すのを諦めたのか真向かいに座った和真が疲れたように言う。
「うん、まあその通りなんだけどね」
わたしは半ば上の空でそう答える。
わたしはこの1時間箱を開けてからの、わたしの記憶を脳内で再生している。
手がかりはこれしかなさそうなのだ。
まだリビングのテーブルに座っている悪魔を横目で見る。
TVを消されてやることもないのかのんきに欠伸なんかしている。
―――TV?・・・・TV!
圧倒的に強い悪魔。条件。ルール。言動。
わたしはソファーから立ち上がる。
新聞のTV欄を見る。あった。
わたしは有無をいわさずTVをつけ、チャンネルをその番組に合わせる。
その番組は年に何回かあるクイズ番組で、芸能人が大勢出ている大掛かりなものだ。
今日はその再放送があっている。
ちょうどクイズの場面だ。クイズは連続して次々と出題される。
4択のクイズで時間内にABCDのどれかを選ばないといけない。
わたしはボリュームを上げ、悪魔を観察する。
悪魔は「B」「A」「これはわからないがCだろう」
などと律儀に全て答えている。
わたしはTVを消す。
「質問します。あなたは質問には必ず答えなければならないのね?『はい』か『いいえ』ではっきりと答えなさい」
「――――はい、だ」
悪魔はやれやれといった感じでそう答えた。
「そしてその答えには嘘をつくことはできないのね?」
「その通りだ」
そうなのだ、思い返してみればこの悪魔は質問には律儀に全て答えていた。
わたしの目的は何か?という質問に、『悪いコト』などと迂遠な言い回し。
嘘はつけないが、答えになっていればいいのだ。
たぶん出てきて喋りっぱなしだったのも質問をされないための予備動作。
TVは初めからついていた。TVに興味がないにしてももし質問が出た場合
会話の流れをぶった切っていきなり質問に答えるという状態が発生してしまうのだ。
それなら初めからTVに興味があるふりをしていたほうが良い。
あとは質問するだけだ。
「あの瓶の蓋はどこ?」
「――――知らないね」
・・・・悪魔は関与してないのか。
「あの瓶の蓋はどうなった?予想でもいいから答えろ」
和真もこちらにやってきてそう質問する。
「この世から消え失せたのだろうさ」
悪魔はそう歌でも奏でるように語る。
この世から消え失せた。つまり、瓶の蓋はこの世にはない。消滅したということだろう。
「もう一度確認しておくわ。わたしが助かるにはあの瓶に蓋をすればいいのね?」
「その通りだ」
「で、蓋はもうこの世にないというわけか?」
「その通りだ」
「それでもまだわたしが勝つ方法はあるのね?」
「―――その通りだ」
ということは、次の質問で全て解決するはずだ。
「蓋はどうやって手に入れればいいの?」
悪魔は。不敵に微笑む。
「僕はね。その質問にだけは答えなくていいことになっているんだ」
甘くはなかった。
「さあさあ物語はクライマックス!ようやく解決の糸口が見えてきた悪魔対人間の大勝負!どちらさまも最後までじっくりと御覧あれ―――残念だったね?」

残り、1時間50分。