2話 瓶詰悪魔 -2-

どこにでもいったし
どこでもあそんだ
ちーちゃんは男の子たちにもまざってよく遊んでいた
あーちゃんはおとなしくていつもにこにこ笑っていた
わたしはふたりのあいだをうろうろしていた

                         ◆

第1回 坂下家、悪魔との夕べ。
・・・いやふざけているわけじゃなくて。
現在テーブルにはわたしと、道化師の格好をした悪魔と、鈴華が座っている。
しかしこの悪魔が。
「いやしかし久しぶりのシャバでこちらとしても意気揚揚乾坤一擲自由奔放唯我独尊といったしだいでもういやビバ自由の味をかみしめるのも実にしばらくぶりというかおお今時のテレビは平面なのかいやはや科学技術は日々進歩してるのだね!おや?それともこれは技術大国日本にしかないのかなこれは実に新品そうだが」
うるさかった。
よほど瓶の中に入っていてうっぷんがたまっていたのか、もう喋りっぱなしなのだ。
わたしのマンションがものめずらしいのか、
「いやしかしマンションの格も随分とあがったものだね!このツルツルとした床!真っ白な壁!そしてこの高さ!いやはやなんというか未来の国に正体されたようだよ!もしかして全自動調理器とかもあったりしないかね?しない?それは残念だ。ところであの扇風機みたいなのは何かね?ハロゲンヒーター?おおまた未知の技術が僕を出迎えてくれるというわけだねすばらしい!」
こうまあひっきりなしに喋っている。
たしかあのハロゲンは和真がいらんかと言って持ってきたのを結局押し問答の末にもらうことになったんだっけ。
『空音、和真様をお呼びしたほうが・・・』
鈴華がどこかしら控えめな声でわたしにそう勧める。
「でもなんか特に害があるようには見えないんだけど」
TVを食い入るように見ている悪魔に視線をやりつつ、わたしはそう答える。
『・・・空音。悪魔が害を成さないなどと考えるのは浅はかです。私が何も感じないのも逆に気になります。いつ結界内に現れたか全くわかりませんでした。胸騒ぎがするんです・・』
鈴華はそう不安げな心中をわたしに吐露する。
「んー。そうだね。念のため連絡だけでもしとこうか」
わたしは軽くそう返し、家の電話に手を伸ばす。
と、遠くから軽快なマーチが・・・・あ、部屋に置いてある携帯が鳴ってる。
あわてて取りに行く。
「はい、坂下です」
慌てていたので誰からかも見ずにとる。
「坂下か」
おや?電話を今しようと思っていた人物だった。
「あ、今電話しようと思ってた――」
「なにか異常は――ー」
声が被った。
「あるのか」
和真の真剣な声。ん?のっけから珍しい。
「うん、今しがた、正体不明の瓶を開けるとびっくり中から悪魔が」
わたしはおどけて答える。
沈黙。
「坂下。一言いいか」
わたしはなんとなく言われる言葉を予測しつつ
「どうぞ」
と答える。
「そんなもん開けるな」
いやまあまったくその通りなんですけど。
あけちゃったものはしかたないではないですか。
「いやでもとりあえずいい悪魔そうだよ?」
「ほう、何か契約を持ち掛けられたり、3つの願いをかなえてやろうとかはいわれてないわけだな」
「うん。アクビ娘のオプションもついてないよ」
和真と話しているとどうしてもボケたくなるのはなんでだろうか。
「とりあえず危険はないんだな・・・・・?」
「まあ特には。いまその悪魔さんTV見てるし」
「とりあえずそっちに行く。警戒を怠るな」
「?和真は何の用事だったの?」
「・・・・・妙な胸騒ぎがした」
鈴華と同じことを言う。
「能力?」
和真の『違和感を感じる能力』かと思い、わたしはそう訊く。
「いや、ただの勘だ」
・・・・なんか余計怖いんだけど。
じゃあな、と言って電話は切れた。
なんか不安を煽るだけ煽った感じだ。
うーん、とわたしは首をひねりながらリビングに戻る。
『空音、連絡はとれましたか?』
「あ、うん来るって」
「ほうなにお嬢さんのボーイフレンドかねいやはや最近の若者は進んでいるという話はよくきくが僕にたいしてラブラブっぷりをみせつけようというのかねなんともなげかわしいまあいいわたしからいえることはただ一つちゃんと明るい家族計画をだね」
機関銃のように喋りつづける悪魔。
うるさいのが害といえば害か。
「あの」
わたしは悪魔に話しかける。
「わたしになにかご用事でしょうか・・・?」
腰を低くしてそう問い掛けるわたし。
いや別にこんなにおそるおそる聞くことじゃないんだろうけど。
「用事?まあ用事といえば用事か」
出したコーヒーに手もつけずにTVを真剣に見ていた悪魔は、顎に手をあてながら
そんなことを言う。
「いえ、なにか怪しげな契約をもちかけたり、3つの願いをかなえてやろうとか、じつはあと11人の使徒がいるとか、マグネタイトをよこせとか、そういう具体的な要望があるのかなと」
「いや特にそんなことはないが」
仲魔になる気はないらしい。いやなられても困るんだけど。
『用がないのならどことなりに消えなさい。なにが目的か知りませんが、空音に手を出したらただで済むと思わないことですね』
鈴華はわたしに危害を加えそうな存在に対しては攻撃的だ。普段は穏やかな――そりゃ説教くさかったり、TVマニアだったり意外ににミーハーだったりするけど――そう、
大和撫子と言っていい性格なのだ。・・・・・・ほんとだよ?
「あの、じゃあいったい何が目的で・・・?」
悪魔はTVから視線を外しわたしの方に向き直ると。
「目的?そんなの決まっているだろう?悪魔の存在理由とも言うべきその行為!」
そこで悪魔は言葉を切り、芝居がかった動作で腕を大きく振る。
「――――悪いコトさ」
悪魔は実に楽しそうに嘲った。